世界創造 作品81a
La création du monde op.81a (1923)
ミヨーの生い立ち
ダリウス・ミヨー (1892-1974)
Darius Milhaud
1892年、南フランスのエクス=アン=プロヴァンスで生まれる。17歳でパリ国立高等音楽院へ入学、シャルル=マリ・ウィドールやポール・デュカスなどに作曲を学ぶ。卒業後は複調(同時に複数の調性を持つこと)に興味を持つ。さらに外交官秘書となり1917年にブラジルへ渡る。当地で耳にした民族音楽やそれの持つ独特なリズムに惹かれ、のちの作風に大きな影響を与える。そのまま外交団としてニューヨークを訪れ、フランスへ帰国。のちにパリ音楽院の教授のみならず、アメリカでも教鞭をとっていたため、大西洋を頻繁に横断する日々を送った。こうしてミヨーの音楽は様々なジャンルの音楽から影響を受け、独特の音楽を生み出していった。フランス6人組の一人。
曲の解説
近代になり、ヨーロッパの作曲家は異文化に大きな影響を受けるようになりました。
我々の日本文化ももちろん多くの作曲家や芸術家に驚きをもたらしましたが、特に影響力が大きかったのはジャズでした。特に当時アフリカの広い地域で植民地支配を行っていたフランスには多くの労働者や移民がいたため、フランス国内でもアフリカ文化への興味が膨らみ、20世紀初頭フランスでは黒人由来であるジャズが流行しました。
ラヴェルはガーシュウィンに連れられて行ったニューヨークのナイトバーのジャズに感銘を受けましたし、ラフマニノフもポール・ホワイトマン率いるビッグバンドのファンクラブに入り、足繁くライブコンサートへ通うほどの大ファンだったのです。
このように枚挙に暇がありませんが、ミヨーも例外ではありませんでした。1922年にニューヨークへ渡ったミヨーは、アフリカ系の多いハーレム地区でジャズを聴き、強く惹かれました。彼はその時に依頼されていたバレエ作品に、ちょうどアメリカで聴いたジャズの語法を取り入れることを決め、1923年に完成させ、同年パリ・シャンゼリゼ劇場で初演します。
ちなみに翌年はアメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンがニューヨークで、クラシック音楽とジャズの融合を試みた「ラプソディ・イン・ブルー」を作曲し、ポール・ホワイトマン・オーケストラと初演した年なのです。
このようにミヨーはガーシュウィンよりも早くジャズの西洋音楽への可能性を見いだし、西洋音楽へ一足先に取り入れたパイオニアだったのです。
曲の構成
この曲は全部で6つの曲が連続して演奏されます。
曲のテーマは「世界創造」、アフリカを舞台とするバレエですので、アフリカ文化の中での天地創造を描いています。
序曲:Ouverture
サクソフォーンによるニ短調のメロディーが演奏され、イ短調やヘ短調を経て、ファンファーレが鳴り響きます。またニ短調へ戻って曲は一旦閉じますが、アタッカでそのまま次へ続きます。
創造前のカオス:Le chaos avant la création
ジャズのメロディーによるフーガ。
ここでは、アフリカの3つの創造神であるンガマ(Ngama)、メデーレ(Medere)、ンクワ(Nkwa)が出現していく様子が描かれています。ピアノと打楽器によってリズムが刻まれ、次々と楽器が加わり、非常に複雑に入り組んだ状態となります。まさに混沌とした世界を表現しています。
動植物の誕生:La naissance de la flore et de la faune
ブルース。(アメリカにて、黒人霊歌や労働歌から発展した音楽)
クラリネット(原曲はオーボエ)によって温かみを持ったブルースのメロディーが演奏されます。この時、神らはまず植物、次に巨大な鳥、臆病なコウモリ、クロコダイル、虫、象、カメ、カニ、猿を生み出します。
男と女の誕生:La naissance de l'homme et de la femme
ケークウォーク。(アメリカ発祥、パリで流行した黒人発祥のダンス)
2つのヴァイオリン(男と女を象徴)が、他楽器の野生的なリズムに乗ってケークウォークを奏でます。さらにピアノや管楽器が曲を盛り上げます。ピアノの長いトリルに導かれて再びヴァイオリンによる色っぽいブルースのメロディーが演奏されます。
欲望:Le désir
嬰ヘ長調のオスティナートに乗ってクラリネットがリズミカルにメロディーを奏でます。
ここで速いテンポと遅いテンポが何度も入れ替わり、最後に混沌としたシーンで演奏されたメロディーを演奏し、緊張と興奮は絶頂に達します。男と女の周りで動物たちも熱狂的に踊ります。
盛事/充足:Le printemps ou l'apaisement
動物たちが去り、恍惚とともに残された男と女が口づけするシーンです。
長調に転調した序曲のテーマと混沌のテーマをサキソフォンとギター(原曲はフルート)が奏でます。最後はニ長調の長七和音(Dmaj7)で幕を閉じます。
©️2016 Shun Oi